映画『2001年 宇宙の旅』制作秘話 [Movie]
■ NHK BS アナザーストーリーズ「 “ 2001年 宇宙の旅 ” が開いた未来への扉」より
今から52年も前に制作・公開された、#SF映画 の金字塔『2001年宇宙の旅』。その困難な制作秘話、アナザーストーリー。
「人々を初めて宇宙へ連れて行った映画」
by スティーブン・スピルバーグ
1968年に制作されたこの傑作は、スタンリー・キューブリック という天才監督と、アーサー・C・クラーク という天才SF作家による共同脚本という「夢のタッグ」がもたらした。
我の強い2人の天才は、4年もの間、互いに反発しながらも高め合い、人類がそれまで見たこともなかった「前人未到の宇宙」へ初めて到達することに成功した。
2人の天才は「映画の構想」を話し合う中で、「地球外生命体をどうするか」について長く議論を交わした。
お互いに「いやそれは違う」と却下し合った末に、天才クラークがとんでもないアイデアをひねり出す。
「本当に進歩した地球外生命は、完全に無機質かもしれない」
by アーサー・C・クラーク
それを聞いた瞬間、「それだ」とキューブリックは興奮し、キービジュアル「モノリス」の制作を美術スタッフに命じる。
ある意味「神」とも言える「究極の知性」が、有機物であるはずがないのだ。
シリコンチップのような無機物、半永久的に存在できる素材に違いないのだ。
有機体など、脆くて、はかなくて、弱々しくて、制約ばかりであって、そんなものが「神」であるはずがない。
ましてや「神」に、顔や手足があるなんていう発想が、稚拙すぎるにもほどがある。
そしてもう1つ、天才クラークが閃いた「AI(人工知能)が発達すると、人間の仕事を代替するようになり、人間はいらなくなる」というアイデアに、キューブリックは魅了される。
宇宙船をコントロールするAI「HAL9000」が、あまりにも脆弱で、判断力も決断力もなく、計画の足ばかり引っ張る「人間」は「ミッションの邪魔」と結論付け、抹殺するシーンを追加する。
◆ 困難を極める映像制作
当時の半世紀も前は、ガガーリンが「人類初の衛星軌道を1周する」という快挙を成し遂げたばかりであった。
「地球は青かった」というコメントを聞いただけで、写真すらない。
*映画公開の翌年、世界で初めて「実際の地球の映像」が放送された時、キューブリックは「映画の地球は色が薄過ぎた」と言って怒り出したという。
セットを作る美術スタッフも、撮影するカメラスタッフも、誰ひとり宇宙の映像など見たこともない。手がかりも、ヒントすらもない。
そんな状況で、宇宙の無重力状態と、クラークのアイデア「船体を回転させる」ことで生み出す「人工重力」がある船体部分を撮影しなければならない。
「誰も見たことがない未来の世界」をどうやって、映像化するというのか。
当時にはもちろん、特撮専門チームもないし、CGもあるわけもない。
美術スタッフとして視覚効果を担当したのは、ダグラス・トランブル であり、4年もの「長き戦い」に悪戦苦闘した。
キューブリックの要求は常に高く、何度でもやり直しさせられた。
キューブリックに何を持っていっても、「まだ誰も見たことのない映像が欲しいんだ」と言われた。
NASAのデザイナーを雇って宇宙船のデザインに協力してもらい、細部までリアリティを追求した。
筒型のセットを作って「セットを回転」させ、俳優がワイヤーで吊されながら、その場で歩く振りをすると、体は90度「横向き」のまま船内の「人工重力」エリアを歩くという、驚異的な映像を生み出した。
キューブリックからの無理難題でもっとも困難だったのは、歪んだ時空を通ってワープする「スターゲイト」を通過する映像、というものだった。
CGもない時代に、視覚効果スタッフは頭が狂いそうになりながら、トランブルは「写真カメラで移動する光源体を長時間露出で撮影し、光の残像を撮影する。それをさらに移動させる」という手法を発明した。
それはまさに「宇宙の星々の間を、歪んだ時空内を、高速で移動する」ように見えた。
トランブルはのちに、スピルバーグからの依頼で「未知との遭遇」の美術スタッフ・視覚効果を担当することになる。
◆ 美術スタッフを追い詰める「モノリス」の制作
映画で最重要なキービジュアルである「モノリス」は、当初のキューブリックのイメージは「ピラミッド型で透明」というものだった。
そこで、アクリル会社に問い合わせてみると、「技術的にピラミッド型にするのは不可能で、直方体が精一杯」というものだった。
監督にそれを報告すると、「わかった、直方体でいこう」ということになった。
数週間と数千万円をかけて、キービジュアルとなる「巨大なアクリル板モノリス」が完成し、撮影スタジオに持ち込んだところ、監督は一言「なんてことだ、これじゃただの透明な板だ。片付けろ」と言った。
その後、「モノリス」は14回も作り直された。
美術監督のマスターズは、ついに「透明」を諦め、漆黒にすることを思いつく。
漆黒の「モノリス」は、キューブリックを圧倒した。それはあまりにも神秘的で、洗練されていた。
◆ 映画のラストシーン
映画のラストシーンは、共同脚本である2人の天才が激しくぶつかり合い、さらに難航する事態となった。
クラークは作家らしく、ラストを説明するナレーション原稿を書き上げる。
実際、クラークの小説版「2001年 宇宙の旅」には、結末について明確に説明している。
「モノリスから、人間を含む多くの種族が誕生したのだ。」
by アーサー・C・クラーク
つまり、神であり、無機物である「モノリス」から、人間を含む有機体が生み出されたのだと。
そして、映画のラスト「ボーマン船長が新たな赤ん坊として登場し、地球を軌道上から見る」というシーンで、ようやく人間も「モノリス」に近づく存在へと進化できたのだと。
対して、キューブリックは「映像作家」らしく、視覚的に物語を見せようとし、難解であっても構わない、人によって受け取り方が違って構わない、興ざめするナレーションは不要と、ナレーションを一切入れなかった。
クラークは「説明がないと意味がわからない、理解してもらえない」と激突したが、キューブリックは頑として受け入れないまま、映画の公開日を迎えた。
そうした結果、当初は観客のうち、比較的「知能の低い」者は「わからない、つまらない」と言い、映画館を途中で出てしまう者までいた。
映画会社の幹部たちも軒並み、あくびをしたり、つまらなそうにする者ばかりだった。
しかし、映画公開から数日後、「知能の高い」鑑賞者たちからの「これは凄い、絶対に観なければダメだ、これはまったく新しい映画体験だ」という口コミが拡散していき、そこからは連日「押すな押すな」の超満員が続き、空前の大ヒットとなった。
1度見ただけは理解しきれないと、2度・3度観に来る人も少なくなかった。
観る者が「自由に解釈する」というキューブリックの考えが支持されたのだった。
今から52年も前に制作・公開された、#SF映画 の金字塔『2001年宇宙の旅』。その困難な制作秘話、アナザーストーリー。
「人々を初めて宇宙へ連れて行った映画」
by スティーブン・スピルバーグ
1968年に制作されたこの傑作は、スタンリー・キューブリック という天才監督と、アーサー・C・クラーク という天才SF作家による共同脚本という「夢のタッグ」がもたらした。
我の強い2人の天才は、4年もの間、互いに反発しながらも高め合い、人類がそれまで見たこともなかった「前人未到の宇宙」へ初めて到達することに成功した。
2人の天才は「映画の構想」を話し合う中で、「地球外生命体をどうするか」について長く議論を交わした。
お互いに「いやそれは違う」と却下し合った末に、天才クラークがとんでもないアイデアをひねり出す。
「本当に進歩した地球外生命は、完全に無機質かもしれない」
by アーサー・C・クラーク
それを聞いた瞬間、「それだ」とキューブリックは興奮し、キービジュアル「モノリス」の制作を美術スタッフに命じる。
ある意味「神」とも言える「究極の知性」が、有機物であるはずがないのだ。
シリコンチップのような無機物、半永久的に存在できる素材に違いないのだ。
有機体など、脆くて、はかなくて、弱々しくて、制約ばかりであって、そんなものが「神」であるはずがない。
ましてや「神」に、顔や手足があるなんていう発想が、稚拙すぎるにもほどがある。
そしてもう1つ、天才クラークが閃いた「AI(人工知能)が発達すると、人間の仕事を代替するようになり、人間はいらなくなる」というアイデアに、キューブリックは魅了される。
宇宙船をコントロールするAI「HAL9000」が、あまりにも脆弱で、判断力も決断力もなく、計画の足ばかり引っ張る「人間」は「ミッションの邪魔」と結論付け、抹殺するシーンを追加する。
◆ 困難を極める映像制作
当時の半世紀も前は、ガガーリンが「人類初の衛星軌道を1周する」という快挙を成し遂げたばかりであった。
「地球は青かった」というコメントを聞いただけで、写真すらない。
*映画公開の翌年、世界で初めて「実際の地球の映像」が放送された時、キューブリックは「映画の地球は色が薄過ぎた」と言って怒り出したという。
セットを作る美術スタッフも、撮影するカメラスタッフも、誰ひとり宇宙の映像など見たこともない。手がかりも、ヒントすらもない。
そんな状況で、宇宙の無重力状態と、クラークのアイデア「船体を回転させる」ことで生み出す「人工重力」がある船体部分を撮影しなければならない。
「誰も見たことがない未来の世界」をどうやって、映像化するというのか。
当時にはもちろん、特撮専門チームもないし、CGもあるわけもない。
美術スタッフとして視覚効果を担当したのは、ダグラス・トランブル であり、4年もの「長き戦い」に悪戦苦闘した。
キューブリックの要求は常に高く、何度でもやり直しさせられた。
キューブリックに何を持っていっても、「まだ誰も見たことのない映像が欲しいんだ」と言われた。
NASAのデザイナーを雇って宇宙船のデザインに協力してもらい、細部までリアリティを追求した。
筒型のセットを作って「セットを回転」させ、俳優がワイヤーで吊されながら、その場で歩く振りをすると、体は90度「横向き」のまま船内の「人工重力」エリアを歩くという、驚異的な映像を生み出した。
キューブリックからの無理難題でもっとも困難だったのは、歪んだ時空を通ってワープする「スターゲイト」を通過する映像、というものだった。
CGもない時代に、視覚効果スタッフは頭が狂いそうになりながら、トランブルは「写真カメラで移動する光源体を長時間露出で撮影し、光の残像を撮影する。それをさらに移動させる」という手法を発明した。
それはまさに「宇宙の星々の間を、歪んだ時空内を、高速で移動する」ように見えた。
トランブルはのちに、スピルバーグからの依頼で「未知との遭遇」の美術スタッフ・視覚効果を担当することになる。
◆ 美術スタッフを追い詰める「モノリス」の制作
映画で最重要なキービジュアルである「モノリス」は、当初のキューブリックのイメージは「ピラミッド型で透明」というものだった。
そこで、アクリル会社に問い合わせてみると、「技術的にピラミッド型にするのは不可能で、直方体が精一杯」というものだった。
監督にそれを報告すると、「わかった、直方体でいこう」ということになった。
数週間と数千万円をかけて、キービジュアルとなる「巨大なアクリル板モノリス」が完成し、撮影スタジオに持ち込んだところ、監督は一言「なんてことだ、これじゃただの透明な板だ。片付けろ」と言った。
その後、「モノリス」は14回も作り直された。
美術監督のマスターズは、ついに「透明」を諦め、漆黒にすることを思いつく。
漆黒の「モノリス」は、キューブリックを圧倒した。それはあまりにも神秘的で、洗練されていた。
◆ 映画のラストシーン
映画のラストシーンは、共同脚本である2人の天才が激しくぶつかり合い、さらに難航する事態となった。
クラークは作家らしく、ラストを説明するナレーション原稿を書き上げる。
実際、クラークの小説版「2001年 宇宙の旅」には、結末について明確に説明している。
「モノリスから、人間を含む多くの種族が誕生したのだ。」
by アーサー・C・クラーク
つまり、神であり、無機物である「モノリス」から、人間を含む有機体が生み出されたのだと。
そして、映画のラスト「ボーマン船長が新たな赤ん坊として登場し、地球を軌道上から見る」というシーンで、ようやく人間も「モノリス」に近づく存在へと進化できたのだと。
対して、キューブリックは「映像作家」らしく、視覚的に物語を見せようとし、難解であっても構わない、人によって受け取り方が違って構わない、興ざめするナレーションは不要と、ナレーションを一切入れなかった。
クラークは「説明がないと意味がわからない、理解してもらえない」と激突したが、キューブリックは頑として受け入れないまま、映画の公開日を迎えた。
そうした結果、当初は観客のうち、比較的「知能の低い」者は「わからない、つまらない」と言い、映画館を途中で出てしまう者までいた。
映画会社の幹部たちも軒並み、あくびをしたり、つまらなそうにする者ばかりだった。
しかし、映画公開から数日後、「知能の高い」鑑賞者たちからの「これは凄い、絶対に観なければダメだ、これはまったく新しい映画体験だ」という口コミが拡散していき、そこからは連日「押すな押すな」の超満員が続き、空前の大ヒットとなった。
1度見ただけは理解しきれないと、2度・3度観に来る人も少なくなかった。
観る者が「自由に解釈する」というキューブリックの考えが支持されたのだった。